くじらになった牛
海にいるあの大きなくじらは、昔は牛だったそうです。牛は陸にいるとき、あんまり人間にこき使われたので、「陸にいるときついから、もう海に逃げた方がいい」と言って、海に逃げていったそうです。
ところが、この牛が海に逃げて、龍宮に行くと、また龍宮であんまりこき使われたので、「ここからも逃げてしまおう」と言ってすぐに逃げていき、泳いでいるうちに鯨になったそうです。そのとき、龍宮の神様は、鯨に似ておるアヤビトゥ(シャチ)というのに、「鯨が逃げたから追いかけろ。見つけ出したら殺してこい」と命じられたので、それからアヤビトゥ(※1)は鯨を見つけると突き殺すようになったそうだ。
鯨というのは牛だったから、それで、鯨も鳴くときには、牛のように、「ンモー」と鳴くんだよ。
字阿波連 大宜見信行(明治41年3月20日生)昭和56年4月30日聴取
- ※1.アヤビトゥ
- アヤとは縞のこと。ヒートゥはイルカのこと。縞のあるイルカ、つまりシャチのことか。
解説
牛が海に入って鯨になったという話は、八重山諸島の中のもっとも南の島である波照間島似も伝えられている。ただし、波照間島の場合は、怠け者の息子が田の耕すときに、一度に沢山耕そうとして、牛を横に繋いで田を耕していると、大津波が押し寄せて来て、牛もその息子もともに津波にさらわれた、牛は海を泳いでいるうちに鯨になったという話である。それで、波照間島には、今も必ず田を耕す時期になると鯨がやって来ると伝えられている。
出典:「とかしきの民話」/発行:国立沖縄青年の家